読書録「強運の持ち主」

今回の読書録は「強運の持ち主

著者は、2019年の本屋大賞を受賞した「そして、バトンは渡された」でも有名な瀬尾まいこさん。

主人公は占い師のルイーズ。日常生活の中で人はいろんな悩みを抱えているが、その問題をルイーズが解決していく4話構成の物語。

自分の生活に通ずると感じたところをピックアップしていく。

目次

名は体を示す

「名は体を示す」とは、言葉の通り「名前は実体を示す」こと。

主人公であるルイーズの本名は吉田幸子と、どこにでもいるような一般的な名前。師匠であるジュリエ青柳が占い師としての信憑性を得るために、ルイーズ吉田と命名し、そこから占い師としてスタートし、お客さんからも人気が出てくる。(もちろん、背景には前職での営業経験が活きてくるわけだが)

大人になり、さまざまな人と関わるなかで、自身のキャラを立たせることの難しさを感じていたので、なんとなく刺さった部分でもある。

ルイーズ自身もこっぱずかしい名前と感じているが、占い師としては吉田幸子よりしっくりくる気がするし、名前に合ったキャラを振る舞える気がする。実際にルイーズが占い師としての立場で、本当の自分を見せることはお客さんと打ち解けた時だけだ。

我々が無条件で、社長や部長を偉いと感じてしまうのにも同様の現象だろう。例外もあるが…

必ずしも「名は体を示す」とは限らないが、自分の理想とする姿があるなら、それに近しい名前や肩書きをつけることで近づける可能性はあるだろう。

今ある情報から仮説を提示

占いでは、姓名や生年月日、人間関係などの情報をうまく引き出しつつ、その人の悩みに即したアドバイスをする。

占いに必要な情報が毎回得られるわけではなく、相談者が情報を開示しない場合もある。情報を開示しない場合でも、相談者は答えを求めているわけなので、今ある情報をもとに何かしらの答えを提示しなけばならない。

占いも営業やコンサルティングとよく似ているなと感じた。

またルイーズは小学三年生のけんじ君から「父親と母親、どっちにすれば良いか?」という相談がくる。離婚時にどちらにつくのかを決める人生の一大事であると理解したルイーズは、師匠のアドバイスのもと、けんじ君の両親について調べる。

結果的に両親についての実態が掴め、解決に導くことができるのだが、リサーチの賜物である。悩みの解像度を上げるためにはリサーチも重要な行動だ。自分自身が自信をもって提示するためにも、リサーチは欠かせないであろう。

価値をつけるのはあなた次第

本書で一番響いた部分である。

ルイーズは、本屋で買える占いの本通りに伝えているだけなのに、3,000円を払うお客さんが途絶えないことに驚きを隠せない。またルイーズはそれを無駄遣いと捉えている。

ジュリエ青柳は、価値はあなた次第であり、大事なのは正しく占いことではなく、背中を押すことだと言う。

この辺りはコンサルティングにかなり近いと感じる。コンサルティングも最終的には背中を押し、相手に行動してもらうことに価値があるからだ。

そこに価値を感じるかどうかは自分次第であり、また相手次第でもある。価値を感じるのであれば3,000円も安いものだろう。

本でも得られる内容を人を介することで、より納得感があり、行動に移す原動力になるのであれば、そこにはAIにすら奪えない人間としての価値が存在するのではないかとも思う。

運勢を決めるのは自分

最終章では彼氏の悩みに対して、占いで解決しようとするが、違和感を覚え、最終的には直感を伝え、解決する。

結局、占っても運勢を決めるのは自分自身であると締めくくる。さまざまな人間関係のなかで、自分が決めたことばかりではない。家族や友人などの関係で思い通りの流れにならないことも多々ある。それでもいろんなものを頼りながら、それとなく良い方向に流れていくことを感じる。

昨今では、データ重視の潮流があるが、まさに決めるときは直感なども必要だと思う。データばかりでは見えないものや不足していることも多い。今ある情報をもとに仮説立て、いろんな人の力を借りながら、意思決定していく。

そうやって人生を形成することが必要だし、社会を創造していくことが、健全なのだろうと感じた。


以上、私が「強運の持ち主」を通して感じたことだ。

文学小説として純粋に楽しむのも良いが、自分の生活に活かせないかと考えながら読むのもまた一興。

ぜひ一度手に取って読んでみてほしい。

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